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栄通記

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2007年 12月 16日

434)  短歌 菱川善夫選「物のある歌」-19・12月16日

 短歌 菱川善夫選「物のある歌」
 (北海道新聞2007年12月16日朝刊、日曜文芸・P23より)

 菱川善夫氏は12月15日(土)午前5時20分、 胃がんにより、入院先の北楡病院(札幌)にて亡くなられました。享年、78歳。

以下、「物のある歌」全文をご紹介します。


ちから溜め噴きあげふいに底をみすおほき流動体 冬濤は

 「冬濤(ふゆなみ)」の迫力と正面切って対峙(たいじ)した気力の一首。濤には濤の底力があるが、「流動体」の底に溜(た)めこんだ混沌(こんとん)たるエネルギーを、突然みせつけられた力への賛嘆が、張りのあるリズムとなって読む者の心にひびく。

・みてならぬものと見ている冬濤が<時>ひき戻さむと軋むさま

 「みてならぬもの」を見てしまったのだ。冬濤は、みずからの<時>を引き戻すことで、人もまた存在の根拠をつかみなおすのではないか。その作業は個別性が強いだけに、本来人に見せるべきものではない。見てならぬものを見たという思いは、みずからとひきくらべる意識が働いていたことを語っている。冬濤の底を見たからには、海底に棲(す)むものにも連想は働く。

・狼魚(おおかみうお) 底に棲む海 潮さわぎ夜々騒ぎつつふゆへとむかふ

 「狼魚」はオホーツク海にすむ寒帯性の魚。大きな口に、とがった犬歯を持つ恐ろしい顔つきが印象的だ。<仙人にあらず霞は喰らはねど 浦霞召すちょいとぬるめて>の歌にあるように、酒に燗(かん)をつけて時間を引き戻す際にも、狼魚は作者の胸中に浮かんでいたのではないか。冬にむかう潮のざわめきとともに、生命もまたよみがえってゆくのだ。

   村上敬明(のりあき)
  「われも花(2007年、短歌研究者)」。1950年(昭和25年)網走管内斜里町生まれ。同町在住。

おことわり 菱川善夫氏は15日、死去されました。本日の「物のある歌」は、同氏が生前に書かれたものです。


 謹んでご冥福をお祈りいたします。

by sakaidoori | 2007-12-16 14:13 | ◎ 短歌・詩・文芸


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