栄通記

sakaidoori.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
2007年 11月 18日

405)  短歌 菱川善夫選「物のある歌」-16・11月18日

 短歌 菱川善夫選「物のある歌」
 (北海道新聞2007年11月18日朝刊、日曜文芸・P25より)

・これという道楽もせで吾夫(あづま)老ゆ何ぞたのしみはよはよなされ(冒頭歌)
・スロースローにつづくクイックままならずクイックなしの今ぞ晩年
・白無垢を纏い柩のいもうとは黄泉なる夫へ再び嫁ぐ


   福間妙子。
  「うめ・もも・さくら(2007年、短歌研究者)」。1924(大正13年)年福岡市生まれ。同市在住。

 愉快な歌だ。楽しい歌だ。良い歌だ。

 夫は御幾つか?おそらく80歳は過ぎているだろう。定年過ぎの夫に第2の人生という意味で積極的趣味を求めるのは分かる。が、「もう、いつ死ぬか分からぬ貴方。人生に悔い無きよう、何か楽しみをして下さい」と老いた奥さんである歌人が囃したてる。それを聞いて、夫は多分ニヤニヤしているだろう。『あいも変わらないうるさい婆さん』と、心の中でつぶやいているだろう。

 死を帯びたユーモアは妹の死に対しても、同じ夫への再婚の儀式として歌い上げる。(僕は時々妻に、「あの世でも一緒に暮らすかい」と聞いたりするが、返事は間違いなく、「ノン」だ。)そして本人は、老体に鞭打ってクイックの出来ないダンスに余念が無い。

 平々にして凡々、死を取り込んでの大らかさ、屈託の無さ。老ゆることの気概に圧倒されそうだ。これが女性の強さか。僕が30年後生きていたら、かくありたいものだ。

405)  短歌 菱川善夫選「物のある歌」-16・11月18日_f0126829_15114293.jpg
 ↑:岸葉子、「薔薇」(新聞の同ページの挿絵より)。全道展に同姓同名の大ベテラン女性画家(東京都在住)がいます。その人かどうか分かりません。

by sakaidoori | 2007-11-18 15:18 | ◎ 短歌・詩・文芸


<< 406) CAI 「FIX・M...      404)11/19(月)、メン... >>