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栄通記

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2007年 09月 30日

329)  短歌 菱川善夫選「物のある歌」-12・9月23日

 短歌 菱川善夫選「物のある歌」
 (北海道新聞2007年9月23日朝刊、日曜文芸・P25より)

・マナティーが月を抱きて歌うとき立つさざ波を不安というか (冒頭歌)
・背後より黒頭巾もてせまりくる死よすっぽりと我を捕らえよ
・強風にあんぱんの袋が飛んでいく私も飛びたいあんなに軽く
・ひと口のパンが喉(のみど)を通った日私は真紅の薔薇になった

  柳澤 桂子
 「萩」(2007年、角川書店)。1938年東京生まれ。理学博士。闘病の傍らサイエンスライターとして活躍。東京都在住。

  4首の歌が起承転結のような構成になっている。
  マナティーとは人魚のイメージの原型といわれる水生動物とのこと。そのマナティーが恋人(月)を抱いている幻想的な世界に不安を見つめる(「起」)。その不安は死に覆いかぶされる(「承」)。一転して、あんぱん袋になって自由に飛んで行きたいと軽やかに詠う(「転」)。ふくろうに入っていたであろう、パンが喉を通る時、私は「私は深紅の薔薇になった」と生命の輝きを詠って、菱川選歌は閉じられる(「結」)。

  短歌全体の世界を演劇を見るように視覚化されたことに、軽い驚きを感じた。柳澤さんは今年で70歳くらい。菱川さんにとって、同輩の女性歌人に対する応援メッセージだろう。「まだまだ人生はある。君は病に、僕は文芸と闘おう。短歌という同志へ!」


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by sakaidoori | 2007-09-30 21:50 | ◎ 短歌・詩・文芸


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