栄通記

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2007年 09月 21日

320 )テンポラリー 「阿部守展」・鉄 9月11日(火)~9月23日(日)

○ 阿部守展

 会場:テンポラリー スペース
     北16西5 北大斜め通り・西向き 隣はテーラー岩澤
     電話(011)737-5503
 会期:2007年9月11日(火)~9月23日(日)
 時間:11:00~19:00

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 広くも無い会場にただ一個の鉄塊。ただそれだけ。
 入り口、コンクリートの踊り場の椅子に座って見る。作品の周りを静かにまわりながら見る。近づいてなめるように触る。軽く叩く。たわんだ床との間に隙間がある。四本の指を入れ内側を摩り、厚みを測る。

 目は鉄の色を追う。皺のようなデコボコに覆われた黒、赤が優しく迫る。そう、優しいのだ。余りに優しいのだ。演壇のテーブルのような作品。見られる面、レリーフ状の横顔が炭鉱夫のように黒く染まり、仕事を終えて喜びと安堵の表情で赤らみ、土魂から浮き出たようにして存在している。
 ロダンの系譜に直結する萩原守衛、仲原悌二郎、その日本近代彫刻史の写実・ロマン主義へと、あたかも現代に背き近代へと逆行したような作品だ。当時の力強さは優しさへと置き換えられた。しかし、人間臭さ、人間のプラスの側面が顔に表れる、顔で表現出来るいという価値観は共有している。そういう意味では古い。間違いなく作家は明治のヨーロッパ美術・価値観の導入時期へと時間を戻して製作している。
 今作品は石狩河口に結ばれていると聞く。詳しくは知らない。説明文は会場には無い。北海道の明治はまさしく、内地で食い詰めた和人の開拓精神と欧米の技術という両輪で国家の主導の下に強引に時を刻んでいった。先人としてのアイヌは和人との交流で擦文土器時代からアイヌ時代へと変貌の主役を務めたが、江戸時代には場所請負制に組み込まれ道内の唯一の労働力として貶められた。彼等の捕った魚は食物としてでは無く、金肥として畑の肥やしになり、綿に変貌し江戸文化の豊かさを支えた。明治以降は読者のご存知のとうりである。その北海道を阿部守は訪人として、訪人を超えて静かに自分の土着精神と向き合おうとしている。たとえ真剣とはいえ、この地での滞在時間は知れている。美術表現が非言語的思想の発露とするならば、個性の発揮という美名に拘らず個人の傲慢な行為であることには代わりはない。阿部は問うているだろう、「何故、この地を思うて作品を作るのか?何故、見せるのか?誰に見せるのか?」・・・・古臭い作品だ。人間臭い作品だ。何と綺麗で優しい作品だろう。部屋に置かれた作品はお披露目に過ぎない。嫁入り前の生娘だ。この生娘に僕は手垢で抱きしめてきた。静かに晴れがましく北海道の大地に嫁入りさせたい。人工的な鉄が木や土や草と仲良くやっていけるか、時々会いに行こう。鉄は雪を待っているだろう。阿部・鉄の優しさ厳しさ赤黒さと雪の白との出会い・・・。想像力は人の生きる知恵だ。興味尽きない作品だ。

 書き始めたら肝心の作品論にならなくなってしまった。かつ、人物論も中途半端に終わってしまった。「古さ」という原点回帰に「今」がどう呼応しているかが、今展の全てだと思う。光に彩なす「美」と「泥臭さ」が美術的側面でもあろう。

 23日(日曜日)までです。

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by sakaidoori | 2007-09-21 14:34 | テンポラリー


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