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栄通記

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2007年 09月 04日

311)テンポラリー 「石田尚志・展」・映像8月28日(火)~9月9日(日)

○ 石田尚志・展

 会場:テンポラリー スペース
     北16西5 北大斜め通り・西向き 隣はテーラー岩澤
     電話(011)737-5503
 会期:2007年8月28日(火)~9月9日(日)
 時間:11:00~19:00

 映像を中核にしてのインスタレーション。

 肉感的な生理に知的操作を重ね合わせた映像作品だ。
 黒幕で仕切られた板床の部屋、入って正面に映像が流れている。タイトル・「海の時間」がエンドレスで増殖する模様がせわしない。本来は無音の映像なのだが、隣室でモニター放映されている作品のバロック音楽が静かに響いている。バッハの「フーガの技法」、クラヴサンなのだがピアノに聞こえる。映像の鋭さがクラヴサンのこもった音を明快なリズム感に変えて聞こえるのだろうか。

 「海の風景」を映し出しているのだが、画面の中に映写機も被写体として見え隠れしている。本物の海はエピローグや象徴として流れるだけだ。藤谷康晴君ばりの青色の線描が逆巻く渦潮のように、女人の長き黒髪が狂おしく絡みつくように水平線から下方に流れ出していく。増殖していく。
 なぜか石田氏は方形に拘る。映像の中で映写機の写すスクリーンは部屋仕立てで白く四角い。直線の水平線は時折、海を上から写すスタイルへと四角く変身し、その四角形は水平線からコトンと落ちていく。まるで重力を確かめるようにして何度も何度も四角は生まれては傾き揺れながら落ちていく。四角い部屋の直線が静かに見守っている。
 落ちては時の流れを継ぐように、アールヌーボー風の線描が画面一杯に溢れては後退していく。この線描は画家自身が描いたもので、それを映像の一こま一こまに取り込んだものだ。動画なのだ。(会場には肉筆画が展示されている。)生理むき出しの線描、それを映像に取り込んでいく粘着質的な作業、それらの肉質性に反した緊張を強いる白と直線と四角の世界。物理学に重力を含めた4つの力の統一という課題がある。宇宙発生のビッグ・バン以前の宇宙の姿の探求という物理学の問題がある。不可視なる未知への探求は学問を超えて考えることの知性を刺激する。作家は己の肉体のエネルギーを線描という形で爆発させて、始原へと回帰し、更にその先を見極めようとしているみたいだ。肉だけでは足りない、知が磁石のようにアンテナをめぐらす。この会場には多くの「目」がある。映像の中の映写機、オリジナル映像製作の為の映写機、会場で一つ目小僧のように一人奮闘する映写機、それら全てを見る鑑賞者の「目」。会場全体を四角く閉じ込めて、目と四角がいくつもの入れ子状態になっている。価値観が層を成してうごめいている。

 作家はバロックをバッハをフーガを好んでいるようだ。バロックは当時に会っては宮廷人の胸わくわくする高揚感があっただろう。ルネサンス的予定調和感を壊し、男女の機敏な駆け引きにも使われたろう。特にバッハは宗教音楽を大成しながらも進歩的階段を上り詰めようとした。石田模様の増殖、・消滅の繰り返しはフーガの主題の繰り返しに余りにも符合するのだろう。バッハの多重性・進歩性・知性がバロック好みに拍車をかけるのだろう。しかし、今となってはバッハは美しく精神的過ぎる。人類に稀なる物質的豊かさを築いた現代に、なぜかしら不安・落ち着きの無さに満ちた現代に、バッハは救いとしては機能するかも知れないが未知への探求の僕となりうるだろうか?「狂」をはらんだ石田模様、実験の世界では充分に暴れまわることが出来るだろう。30代という若さでバッハの美しさの虜になっては、美の中での「狂」は「知」と予定調和を演じるかもしれない。

 刺激的な展覧会です。主室の映像と線描、ライブの痕跡、喫茶室の旧作の映像作品、用意された各種の資料で全貌が伺えます。学芸員や専門家の言葉も知ることが出来ます。小一時間ほど時間を要するかも知れませんが、現代美術に関心のある方には恵まれた機会だと思います。


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 ↑:映像の前のブランコと下のドローイングはライブ時の作品。真ん中に太陽のように輝いているのは照明の関係で出来たものです。正面から撮るとこうなるので、以下の写真はかなり斜めから撮っています。上の写真の映像機は画像の一部です。暗い中で、あまり写真のできはよくありません。蔦の絡まるような模様の写真も撮り損ねました。暗い中での撮影です。あくまでも参考として役立ててください。
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 ↑:上の3枚の写真は会場2階に展示されている小品のドローイング。これらの作品が映像の原画になっていくのでしょう。

by sakaidoori | 2007-09-04 15:58 | テンポラリー


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