人気ブログランキング | 話題のタグを見る

栄通記

sakaidoori.exblog.jp
ブログトップ
2007年 08月 28日

303) 佐々木徹さんからのバースデー・カード

303) 佐々木徹さんからのバースデー・カード_f0126829_15195811.jpg

 佐々木徹さんからバースデー・カードを頂いた。二通頂いた。


「お誕生日おめでとうございます。
FIXMIXMAX展のTAKEDA SYSTEM vol,007における「佐々木徹個展」、
ご高覧ありがとうございました。

この度、佐々木徹はかねてより闘病中でしたが、平成19年5月21日永眠致しました。
故人の意思を受け継ぎ、このBIRTHDAY CARDを遅らせて頂きます。

   家族一同」

 同様の内容で「水脈の肖像06ー日本・韓国・ドイツの今日」展の時のカードも届けられた。


 初めて佐々木さんの作品を見たのは「札幌の美術2004 20人の試み展」の時だった。キンキラキンの自転車の前にポップな写真?を沢山貼ってあった。他の作家とはちょっとずれた視点からの作品で、なんということもなく記憶にしまいこんだ。日めくりカレンダーが用意されていて、誕生日のところに連絡先を記載すれば、その日にお礼状を贈るというのである。これまた、なんという思いも無く記載した。

 2004年7月31日に送られてきた。実に何の興も湧かないで受け取った。「面白いことをされる人だ。何人送られたかは知らないが、ピンポイントでその日に着くようにするのって、結構大変だろうな」

 その後、間違いなくもう一度頂いた。何の発表時の礼状だかははっきりとは覚えていない。覚えているのは、最初の時とは違ってその日を期待して郵便物を調べ、カードを確認した時にニンヤリと笑ったことだ。こういう遣り方で「作家ー作品ー鑑賞家」を繋いでいることに「現代美術も悪くはないな」と一人満足したものだ。

 今年の5月に佐々木さんが亡くなられたのは知っていた。「FIXMIXMAX展のカードはどうなるのかな。もしかしたら家族の方が送ってくれるかもしれないな」と、軽い期待を持っていた。誕生日ではないが間違いなく贈られてきた。有難うございます。


 以下、三つの図録から写真紹介をします。

303) 佐々木徹さんからのバースデー・カード_f0126829_15215297.jpg
 ↑:①「札幌の美術2004 20人の試み」展の時の会場風景。

303) 佐々木徹さんからのバースデー・カード_f0126829_15242252.jpg
 ↑:②「水脈の肖像06ー日本・韓国・ドイツの今日」展の時の壁に貼られた365枚の部分図。

303) 佐々木徹さんからのバースデー・カード_f0126829_15274160.jpg
 ↑:③FIXMIXMAX展の会場風景。家がタケダ・システムで、その中の犬を含めた作品群が佐々木さんの作品。

303) 佐々木徹さんからのバースデー・カード_f0126829_15312417.jpg
303) 佐々木徹さんからのバースデー・カード_f0126829_1532157.jpg
↑:④⑤中の様子。


 近作は全て「対話する0と1」のシリーズである。試み展の図録によると1998年から始まったようだ。犬や自転車が佐々木さんの分身と理解している。目の前に意味もなく膨らんでいく陳腐な景色。繁華街の文化と言えばいいのか、性・商品・日常品・写真・記号・数字などなど。しかも成金趣味のような七色の世界。資本主義、消費社会の負の面ともいえるが、だからと言って我らを包んでいる風景を弾劾しようとか、乗り越えようなどという思想性は作品にはないと思う。映像のように留まることなく、垂れ流しの目の前の現象を、まるで自分とは関係なく、たまたまそこに居るかのごとく振舞っているように見える。「賑々しさ」と「傍観者」。この目くるめく世界にどっぷりつかって、体全体を汚濁にまみれようとはしない。徹底した傍観者にもなろうとはしていない。自転車は逃げる道具にもなれれる。なんと犬の表情の物憂いことか。体の人にも、目の人にもなりきれない。(続く

 佐々木さんの立脚点はどこなのだろう?
 最後の発表が象徴的である。若い武田浩志君とのコラボレーションである。武田君も隠微な裸婦の写真を多用し、エロスをもてあそぶように画題に取り入れている。しかし、「性の(男にとっての)消費」は佐々木さんと同様に重さよりも軽いウォーミング・アップのようにして視覚からすり抜けていく。佐々木さん、武田君は同じように他人との絡みでの自己表現を好んでいるようだ。佐々木さんは武田君に自分の若き影を見ていたのかもしれない。二人とももう一つ、装置を持っている。武田君は音楽を、佐々木さんは時をデジタル風に分節化し、無意味に繋ぎ合わせていく。万華鏡のような色と形の組み合わせ、一枚一枚の写真は日めくりのように時を告げ、最後に生身の人間にひょこりと挨拶に来るのだ。「お誕生日おめでとう」と。一期一絵の展覧会の出会いは、デジタル的時の経過の後、何かを鑑賞者に語らずにはいられないのだ。だが何を語ればいいのか。無縁なる他人に対して。間違いなく許される言葉がある。「お誕生日おめでとう」。

 美術表現は自己表現でもあるのだが、佐々木さんの場合は他者との交流ということが大きく頭をもたげてきていたのではないだろうか。その確認の途上で向こうの世界に逝ってしまわれた。佐々木ワールドに漂う甘さと優しさ。作品と葉書が思い出として私に残されてしまった。
 
303) 佐々木徹さんからのバースデー・カード_f0126829_1525678.jpg
 ↑:⑥


 写真①:「札幌の美術2004 20人の試み」展の図録より。
 写真②:「水脈の肖像06ー日本・韓国・ドイツの今日」展の図録より。
 写真③④⑤⑥:「FIXMIXMAX」展の図録より。

by sakaidoori | 2007-08-28 16:03 | ◎ 個人記


<< 304)①市民ギャラリー 「新...      302)  短歌 菱川善夫選「... >>