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栄通記

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2007年 08月 28日

302)  短歌 菱川善夫選「物のある歌」-8・8月26日

 短歌 菱川善夫選「物のある歌」
 (北海道新聞2007年8月26日朝刊、日曜文芸・P28より)

○ 真近くの鯨が噴きて飛ぶ潮に生臭き香りのわびしくまじる(冒頭歌)

○ 浮き出でて広き背あらはなる鯨無数の傷をそれぞれ負ふ
○ 実存的恋のほむらをただ惜しむ茂吉あるいはゲーテのごとく
○ ゲーテさへ凌ぐほむらがうつしみのうちに息づく生いとしまな

 秋葉四郎
 「鯨の海」(2007年、角川書店)。1937年千葉県生まれ。千葉市在住。

 作家は千葉の人。漁港銚子のある県だ。銚子には鯨にまつわる話が数多くあるだろう。秋葉氏が銚子の人かは定かではない。鯨への擬人化、自己の投影を見ているので幼き時から鯨に親しみ、思いが強いのではと想像される。
 動物を擬人化することは常套手段だ。だが、現代においてなかなか巨大なあるいは猛勇な生き物を使うことは少ない。現代日本人の気性が「闘い」をイメージした動物よりも、等身大の分身(家族の一員)としての生き物を好むからか。作家は現在70歳あたり。昭和の人とはいえ、古武士的な気骨を感じる。古武士は恋を語り、恋に炎(ほむら)を見ている。老いる自分に叱咤激励しているのか。語るなら小さな嘘より、大きな嘘の方が良い。小なる一日本の歌人を世界の大文豪ゲーテに負けないぞと大きな背伸びをしている。その気合、大いに宜しい。せめて、文の中だけでも真似をしたいものだ。


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by sakaidoori | 2007-08-28 10:56 | ◎ 短歌・詩・文芸


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