短歌 菱川善夫選「物のある歌」
(北海道新聞2007年8月19日朝刊、日曜文芸・P17より)
○ 充電器差し込むようにきみの手をきつく握って眠る週末
○ 借りていた傘返すよに君の手を駅の光のなかへ押しやる
○ カーテンに抱かるるかたち夕風や寂しくなくなるまで吹いておれ
槌谷(つちや)淳子。
「ホワイトライズ」(2006年、エス・ツー・プロジェクト)。1970年栃木県生まれ。さいたま市在住。
「握って」、「押しやる」、「抱かるる」など肉感的表現を好まれる作家のようだ。その肉感は軽く淡い。「君」との逢瀬が週末であったり、借り物のような表現は不倫でもしているのだろうか。男そのものを語ることはなく、男の影にロマンスという物語りを歌っているようだ。風のような男に反して、女心の生き生きさが伝わってくる。