短歌 菱川善夫選「物のある歌」
(北海道新聞2007年8月12日朝刊、日曜文芸・P32より)
○ 五週間を家族の元に帰らねば血がみな青くなりたるごとし
○ 単身の啄木に電話無かりしこと思ひをり子の謝罪聞きつつ
○ 戦死願望兆(きざ)す夜にはそちこちに貼りたる子らの手紙を読まむ
小林信也
「合成風速」(2007年、本阿弥書房)。1954年群馬県生まれ。東京都小平市在住。
もうすぐ敗戦の日。この時期には反戦を含意した歌を選ばれます。
作家53歳頃の歌集からの選歌。単身赴任時の心境や家族を偲んでの歌。
ここでの表現の子供は小学生かそれ以前のようです。歌集は53歳頃ですから、もっと若い時の歌だと思います。作家は僕より2歳年下です。「団塊の世代」以後のしらけた世代、熱い学生運動は知っているが、大学には「カクマル」とか「チュウカク」とかいう言葉は生きていましたが、社会運動から日々遠くなる時代の子です。企業人としての寂しさを歌を作ることによって紛らわせていたのかもしれません。古い歌を歌集に入れるのですから、歌にもその頃にも愛着があるのでしょう。子供さんは大きくなって、社会人かもしれません。仕事は上手くいってるのでしょうか?妻とも別れることなく家族は健やかなのでしょうか?