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栄通記

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2007年 07月 29日

273) 短歌 菱川善夫選「物のある歌」-5・7月29日

 北海道新聞2007年7月29日朝刊、日曜文芸(P17)より


○渚とは妻との間(あい)にあるようなないような夏草が匂える

○その男たやすくものをいいながらときおり笑う暑い暑い午後
○明確に語ってしまう恥ずかしさ知らないんだろうおだやかだもの
○家族には告げないことも濃緑(こみどり)のあじさいの葉の固さのごとし

  吉野 裕之「ざわめく卵」(2007年、砂子屋書房)。1961年神奈川県生まれ、横浜在住。


 男と女の間には深い溝があると誰かが歌った。作家は溝ではなく、渚を見ている。そこに妻の匂いも味わっている。家族に告げない自己の秘所に、色なす植物を譬えている。個と個の隙間(断絶)を文学的・美術的技で埋める作家、優しく見るか牙を感じるかは読み手によって変わるだろう。

by sakaidoori | 2007-07-29 12:33 | ◎ 短歌・詩・文芸


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