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栄通記

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2007年 07月 15日

258) 短歌 菱川善夫選「物のある歌」-3・7月15日

 北海道新聞7月15日朝刊、日曜文芸(P19)より

 菱川善夫 選、「物のある歌」。

○ すこやかにわが数式は伸びゆけり教室に生徒(こ)のおらぬ時間は

   検閲にむかし残業ありしかな採点にわれは魅了されゆく

   占領軍米人検閲人かつて桃を啜(すす)りて喉を濡らしき

                棚木 恒寿

       「天の腕」(2006年、ながらみ書房)。1974年香川生まれ。京都市在住。


 作家は作歌当時32歳。検閲など体験していない。おそらく教員だろう。若い先生だ。黒板に数式を伸び伸び書いて、生徒のいない時間と言って戯れている。その先生が生徒の採点に戦時下の検閲を透かしみ、占領人・検閲人の他者を管理するものの嫌らしき喜びと、教師である自分の行為とをダブらせている。生徒のおらぬ時間=自由、検閲=管理・非自由、桃を啜る=エロス、自由と非自由の境界には灰色ゾーン・エロスが付きまとう。

by sakaidoori | 2007-07-15 22:39 | ◎ 短歌・詩・文芸


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