栄通記

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2007年 05月 10日

176) 時計台 「西辻恵三展」・油彩画 ~5月12日(土)まで

○ 西辻恵三展

 会場:時計台ギャラリー 2階B室
    北1西3 札幌時計台文化会館・中通り南向き
    電話(011)241-1831
 会期:5月7日~5月12日(土)
 時間:10:00~18:00 (最終日17:00まで)

 かなりのまとまった個展を始めてみたのは西辻さんだった。その時学んだことは絵に表現された「ヒューマニテック(命あるものへの愛)」と、絵を通して滲み出てくる西辻さんのもの見る「おおらかさ」だった。
 4年前の冬・2月、小樽の運河を照らすイベントを見に行った。小樽美術館で中村善策を見、3階の市民ギャラリーをついでに鑑賞した。沢山の贈花が会場外の廊下に置かれていた。広い展示場だ。ゆっくりと見て廻った。暗くなるまでには時間があったので、かなりの間見ていた。仕事を止めての回顧展である。水墨画のような人と牛の組み合わせ、川端盛邦風の立ち姿のぼうようとした人物画、鳥になって下界を俯瞰する絵などなど。時期時機に画題・画風が変わっていたが、長く見ていると共通項が見えてくる。人間に対する興味、生き物に対する愛情、そういう具体的なことと、それらを含めて絵画独自の主張として画布から何かを滲み立たせたいという願望の表白のように感じた。遠くから西辻さんの声が聞こえる。「絵が描きたくて描きたくて、仕事を止めたよ。どうだい、作風も変わっただろう。まだまだ変わるよ。どういう風になるのか自分でも解らない・・・・」。静かな部屋に高揚した氏の声が弾んでこだましていた。

 二年前にも時計台ギャラリーで個展をされた。場所はより狭いC室。小樽展以来の模索の経過・実験作展だった。狭い部屋に3通りほどの作風の違う作品を展示していた。○△□などの形態に画家自身が関心のあることを前面に出して、自作の今後の傾向を自分自身に暗示させるかのようだった。表現主義的な背景画面とそれと戦うようなシルエットの人物画を今後の方向にしたいと言っていた。やはり牛の絵があって、牛と西辻絵画は付かず離れずの関係にあるようだ。おそらく、牛の持つ生命力、黒という一色さ、ごろんとした形が画題を越えた絵画造形への源泉に寄与しているのだろう。

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 今展でやっと安定した作風を披露することになった。人物のシルエット、黒だが全体に丸みがあり、ことさらヒョウキンなポーズをしているのではないが、どこかユーモラスだ。この細身の「黒人」が、しぐさを変えて表現主義的な背景の中で振舞っている絵ばかりだ。例外はやはり「牛」が登場して、面白みの薄い展示に赤という強さで独特の絵画的使命を与えられて登場していることだ。僕はこの「黒人」をドン・キ・ホーテに例えたくなってしまう。物語では風車を巨人に見立てて彼は戦ったが、西辻ホーテは戦う以前の「これから旅に出るぞ!敵はどこにいるのかな~」と一人で妄想の世界を築き、飛んで跳ねて辺りをうろついているようだ。細身のロシナンテはここでは太い牛ナンテに変わって、西辻ホーテを本当に支えているようだ。

 ようやく西辻絵画はスタート・ラインに着いたようだ。間違いなくこれからも画風は変化するだろう。だが氏の存在に対する愛情とおおらかな関係は間違いなく絵のベースになっているだろう。それらと、プラス・アルファが絵画という表現様式に切実に立ち現れることができるかどうか。

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 右上の○に注目してください。おそらく闇夜を照らす力強い満月です。銀箔色で砂地風に塗られているのですが、輪郭は盛り上がって画材が蔽っているのです。具体的に月は段違いに下がった位置に描かれ、遠くにあって強く輝いているという表現になっています。それは同時に画家・西辻の強い意思・意欲の反映でもあるのでしょう。

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 左の絵がもっともっと上手く描けれたらと願うものです。西辻絵画の特徴が最もよく出ていると思います。四角い牛が四角さが不自然ではなくて、赤い闇から立ち上がってくる、あるいは空間との関係で存在感と生命感が滲み出てくる、その時に人物のシルエットがどういう役割を与えられるかを実験しているようです。肩を斜めにして腕を組んでいるのは本当の意味で西辻恵三です。自画像です。西辻さんの苦渋を思います。

 ランダムですが作品のタイトルを書きます。「風」、「黒の人物ーひとりー」、「黒の中」、「立つ人」、「座る人」、「大地」、「青・人」、「黒の人物ー牛骨があるー」、「黒の人物ー月ー」、「黒の人物ー牛とー」。
 

 

by sakaidoori | 2007-05-10 14:16 | 時計台


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