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栄通記

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2010年 08月 24日

1351) ミヤシタ 「辻けい・展」 終了・7月29日(木)~8月22日(日)


○ 辻けい・

 会場:ギャラリー ミヤシタ
    中央区南5条西20丁目1-38 
    (南北の中小路の、東側にある民家)  
    電話(011)562-6977

 会期:2010年7月29日(木)~8月22日(日)
 休み:月曜日(休廊日)
 時間:12:00~19:00 
     (最終日は ~17:00まで)

ーーーーーーーーーーーーーーーーー(8.22)

 展示は1階と2階。
 1階は、入り口に立体作品が置かれて訪問者を迎えるような展示だ。それにしては位置が微妙に変で、何か違和感を感じる。
 そして、壁には写真が並んでいる。古代遺跡の中に自作の赤い布を絡ませている。現場の芸術活動を説明した写真パネル展と勘違いしそうだ。入り口の妙な位置の立体作品と重なって納得しがたい気持ちが湧いてくる。
 その1階の会場風景を始めに紹介します。
 (以下、敬称は省略させて頂きます。)


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 1階を軽く見渡した後、あれこれ考える前に2階に行くことにした。
 そこは絵画作品だけだ。素晴らしい!!。煌びやかに垂直に伸び上がっている。強い意志、激しい情念の上昇気流だ。

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 作中、ドローイング風に見える線は「糸」だ。染められた糸が和紙のな中に食い込んでいる。当館オーナーによると、旧作とのことだ。最近はこういう絵画作品からは遠ざかっているとのこと。だから旧作である。今展では、これらの糸の食い込んだ作品から糸を幾本か引き抜いているとのことだ。実は、その辺の作品模様をあまり観察していない。作品自体が強く輝いて綺麗で、その強烈な個性に魅入ってしまったからだ。とにかく強く自信にみなぎっている!!

 これほど個性ある作品を作る作家だ。今一度、1階展示を観察すべく階段を降り始めた。

 その時ようやく階下の立体作品の置かれた位置と、作品の意味が分かった。


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 1階作品展示の僕の理解するところを記す前に、資料から辻けい女史のことを簡単に紹介します。

  1953年     東京生まれ
  1979年    多摩美術大学大学院美術研究科修了
  1978~86年 舞台美術に参加
  1982年~   染めを主体に「夢中遊行」と題する空間的な作品を作り続ける
  1986年~   フィールドワーク、野外での学習作業を通して、
             自己(染織した布)と時空(自然界の原理)との関わりを探求する
  1993年~   手すき和紙の手法を取り入れた作品を制作
  2001年~   野外空間に立体作品を制作しはじめる

 「赤く染められた布」が主人公だ。それは美術表現の重要な手段であり、作家の分身でもある。
 そして辻けいは野外に出て行く。自然界を闊歩する。そこは霊感の場でもある。そこに分身である「赤い布」を絡ませ、芸術活動が始まる。いわゆる屋外インスタレーションだ。

 そして、その成果なりをギャラリー空間に再構成させるわけだ。


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     ↑:以上全て「忍路sストン・サークル」での赤い布作品との饗宴模様。


 さて、ミヤシタ・ギャラリーに戻ろう。

 赤い渦巻き状の円錐作品は頭上の吹き抜け部分を真一文字に目指している。(厳密には2階に上がる通路の確保の為に、わずかにズレている。)
 聖柱である、依代(よりしろ)でもある。全てはこの依代の為に存在している。今は夏だ。あからさまに言えば、お盆の御霊の里帰りであり、送り返しの儀式を作家はしているのだ。

 しかし、この立体作品はそれほど強く僕の目にこない。説明はできるが、インパクト少なき会場の原因にもなっている。
 おそらく、1階のインパクトの無さは、他者に自己の仕事を見せる為ではないからではないか?形は、近作の「忍路ストン・サークルでの辻けい の感応」の再現を装ってはいる。赤い円錐はメインのストーンであり、壁面作品はサークル状態で、疑似忍路ストン・サークルではある。だが、そこに並べられてある写真は他の磁場でのものもあり、辻けいの最近の仕事ぶりだ。個々の仕事を深く見せてはいない。
 おそらく、自分の近々の仕事を網羅して、依代を伝ってきた誰かと部屋の中央で何かを語らっているのだろう。肉親か家族か恋人か誰かは知らないが、具体的な黄泉の人との語らいの場だ。他者に見せるという形で、他者を無視している。それが結果として今展をインパクトのないものにしている。

 何を黄泉の人と語り合っているか?定かではないが一つだけ美術的な予想をしてみたい。

 辻けいは人間は自然からはみ出た存在だと認識している。そして、「赤」も単なる色の一種ではない。人が選び出した色だ。人は「赤」に強く感応する、それ故に「赤」を自然から抜き取って、自然でないものにしてしまった。自然でない「人」と「赤」。だが、両者は共に自然を故郷にしている。そこに「辻けい」が仲立ちになり、「赤」を自然の磁場の強い所にさらし、社会を超えた何かを確保する。
 それをギャラリーという時空で再構成し、追体験しようとする。個体験の社会化だ。だが、磁場(野外)での感応とギャラリーでの追体験は、それほど安易には結ばれない。

 もしかしたら、「原体験の磁場(野外)」と「結ばれの場=ギャラリー」という関係を見つめ直しているのかもしれない。


 確かに今展はインパクト薄き展覧会だった。写真展として見るならば、その技術はそれなりのものだろう。だが、辻けいは写真家を目指してはいない。
 あくまでも自然から引き裂かれた「人」を、同類としての「赤」を仲立ちにして、回帰を計っていると思う。
 その本格的な展覧会の場に立ち会いたいものだ。


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     ↑:「スパイラル・シリーズ」・1988 2010年。

 写真家の目には相当の秀作とのこと。実際、長く見ていると味わい深い興に襲われる。だが、上掲の僕の写真では情けないものになってしまった。

by sakaidoori | 2010-08-24 22:52 | ミヤシタ


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