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栄通記

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2010年 03月 29日

1245) ②時計台 「針と糸  碓井玲子・展」 終了・3月22日(月)~3月27日(土)



○ 針と糸
    碓井玲子・展


 会場:札幌時計台ギャラリー       
  会期:2010年3月22日(月)~3月27日(土)

ーーーーーーーーーーーーーー(3・27)

 (1245番の①の続き。)

 碓井玲子さんにとっては初個展です。彼女はどれくらいの知名度のある人でしょう?裁縫系の関係者にとっては承知の存在なのでしょうか?作品の緻密度もさることながら、公式の場での公開が始めてということにも驚かされます。

 作品番号の①、⑤、⑧、⑩と部分図を載せます。時期的には25年前の第1号作品①、制作時間が長くなり始めた⑤、時期的に中期の⑧、最近作⑩ということになります。

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     ↑:① 「私の宇宙」と部分図、1984年11月~1985年5月(約6ヶ月) 東京(大東区谷中)・インド・パキスタン・トルコ・タイ 1315×1735㎝。


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     ↑:⑤ 「水」、1990年1月~1992年10月(約2年9ヶ月) 東京(杉並区和田)・中札内村・インド・トルコ・タイ 1305×1720㎝。

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     ↑:⑧ 「生きもの」、1296年9月~2000年2月(約3年3ヶ月) 石川(小松市)・アメリカ・インド・タイ 1245×1845㎝。。

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     ↑:①の表と裏の部分図。



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     ↑:「開化」(No.2 太陽と月 PARTⅡ)、2004年8月~2009年9月(約3年11ヶ月) 札幌に戻る 1115×1590㎝。

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 初期①の作品はパッチワーク的要素も明瞭で、生地の色合いもしっかり確認できる。絵全体の余白を生かす生地色、パッチワークの貼り合わせ模様、それらと糸による線・波線の世界だ。余白、形、線が全体に静かで、鑑賞者がいろんな想像を膨らますことができる。

 だが、作品は暫時、他人を排除して作る人の唯我的な美の世界に入っていく。きらびやかで激しい動きで、ミクロの爆発型世界だ。
 その強さを保ちながら、ミクロ世界とマクロ的世界の融合へとドラマ進んでいるみたい。ミクロを抱え込んだコスモス(調和)というのだろうか、バランスの良い作品⑧になっていく。

 最近作は「太陽と月」、太陽に負けないだけの「縫い」の世界だ。下地の生地がどれなのかが分からないぐらいに、重ね縫いしているように見える。刺繍師としての巧みの世界でもある。糸は密集していて線としての姿が与えられていない。絵のエネルギーは太陽と月の姿で外に発散しているように見えるが、糸と糸の内部に、部分部分の構築構造に、全体を支える骨格として内部に居座っているようだ。

 基本的には曼荼羅を描いているのだろう。宇宙の生きとし生きるものへの讃歌だ。創作エネルギーは画家の内なるものだが、「旅」というスタイルで、見知らぬ風土から外部のエネルギーを奪い取っているのだろう。
 それにしても、永年のエネルギーの確保、維持と作品としての発散は尋常ならざるものがある。絵は自然・宇宙・生命賛歌という肯定的言辞だが、本当に綺麗事の言葉だけから生まれたエネルギーだろうか?今となっては昇華のレベルではあるが、原点に人間に対する怨念・執念などが無かったのだろうか?あるいは自分の立つ位置と他者との間に絶対的断絶感でもあったのだろうか?きらびやかな「装飾美」はどこに行こうとしているのだろう?

 ふとアウトサイダー・アートを思った。決して今作品はその範疇に入るものではない。明快な設計図的構図を見れば明らかだ。輪郭線も震えがない。だが、知的に枠組みを決めた後は、感情や生命力だけで縫いが進めているように見える。作品の美しさ、素晴らしさに反して、見る以外に他者が入る込む隙間が余りにも無さ過ぎる。装飾が余白を埋め尽くしている。余白を恐怖した油彩画のように。ただただ、「碓井玲子」という存在を「絵」に見るのみだ。

 刺繍、それは女性の専売特許で、器用さと巧みさで小さな夢物語の縫い合わせというイメージだった。
 なのにこの凄み!唯我独尊的な「近代美術」性、エネルギーの発露、讃歌が他者を吸収するという「現代美術」性、その重なりを思う。古さ、新しさ・・・。


 今展だけでは鑑賞者の目に止まる数も限られていることでしょう。美術関係者の関心により、より多くの人に触れてもらえればと願うものです。


~~~~~~~~~~~~~~

 (以下、個人的な覚え書き。)



 10枚の大きな刺繍作品が並んでいた。

 びっしりと糸が埋め込まれていた。
 明るい色模様は、光を求め走っていた。図太い重量感と希求する執念を見た。
 驚きは全制作期間だ、25年!!
 しかも、親しい人以外には見せてはいないという。初個展だった。
 「10枚仕上げるまでは・・・」という信念のみが創作を支えた節がある。幸い、作家は生きて作り終えた。今、静かに作品を語っていた。あれやこれやの思いが去来していたのだろう。

 情熱の塊のような作品だ。作家の生命観、宇宙観の反映であり、愛の結晶だ。
 だが、ただただ「愛」だけでこんなに長く制作されるものなのか?
 「愛」には「憎しみ・怒り」という鏡がある。では何に対する「怒り」?社会、友人、家族、異性、自分自身?なぜ?
 針と糸はマンダラとして応えるだけだ。

 「碓井玲子」を知らない個展鑑賞者が、作品に「愛と怒り」を見てしまった。
 東京人の冷静な目は、「碓井刺繍」に「何を」見るだろうか?


       丸島 均(札幌在住。美術感想家) 今春の札幌での碓井玲子・個展の印象記

by sakaidoori | 2010-03-29 15:52 | 時計台


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