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栄通記

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2010年 02月 24日

1208) ①資料館 「2009年度道教育大学岩見沢校 卒業展(5人の個展)」 終了・2月16日(火)~2月21日(日)

○ ・2009年度 北海道教育大学岩見沢校 芸術課程・美術コース 
     実験芸術専攻
       「空間造形研究室 卒業制作展


 【参加学生】
 三上詩織(2室) 大塚由香(6室)  

  ・2009年度 北海道教育大学岩見沢校 芸術課程・芸術文化コース
     芸術理論専攻
       「美術学研究室 美術学展


 【参加学生】
 小林由夏(3室) 中川彩加(4室) 高杉大介(5室)     

 会場:札幌市資料館2階・1室
    中央区大通西13丁目 
     (旧札幌控訴院。
      大通公園の西の果て)
     電話(011)251-0731

 会期:2010年2月16日(火)~2月21日(日)
 時間:9:00~19:00
     (初日のみ、13:00~)
  
ーーーーーーーーーーーーーーー(2・21)

 実に長たらしい展覧会名になってしまいました。
 要するに、教育大卒業生が一人一部屋を使っての展覧会です。他の卒業生が時計台ギャラリーを使って「卒展」を開いていています。時計台ギャラリーでの場は、「自己表現としての美術作品」に重きがあり、資料館ギャラリーでは、「空間を作り、そこでの鑑賞者との関係を模索する」、そんな違いがあるようです。

 それはともかくとして、一人一室での5人の発表展としてひとくくりに考えたい。意欲的だ。鑑賞者とコミュニケートを図りたいということだ。積極的で頼もしい振る舞いだ。更に更に嬉しくなってしまう。インスタレーション展示によって、1対1で関わろうという姿勢が良い。どうのこうの言って、これが発表の原点だ。
 もちろん、作品の質にはいろいろと意見・批判があったことだろう。それは当然だ。自己研鑽、仲間研鑽と続いて「総括」となるのだろう。できれば2、3回と続けて、より一層の手応えをつかんでもらいたいものだ。

 (以下、敬称は省略させて頂きます。)

◎ 三上詩織の場合

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     ↑:三上詩織、「NO ANSER」・TV 鍵 銅線。

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 非常に良い作品だ。何が良いかというと、沢山の鍵をぶら下げていることだ。このチマチマした涙ぐましい努力が良い。
 それと、他の部屋の作品は、学生自身のエモーショナルな部分を不問にして、一気に鑑賞者に寄りかかろうとしている。三上詩織は自分の感性を信じて遊んでいるのが良い。「他人なんて、どうでもいいのさ。でも、アタイの作品、気になるだろう?だったら見て見て!」

 部屋は暗室状態。沢山の鍵が細い銅線でつり下げられている。いくつもあるモニターには、その鍵を使って南京錠をこじ開けている手が流れている。当然ながら、鍵と南京錠の組み合わせは悪くて、開くことはない。永劫回帰の「ノー・アンサー(答え無し)」、自作自演のイライラムードが「ガチャガチャ」という音響を伴って流れている。照明に写る鍵の影もセールス・ポイントだろう。
 「答え無し」、それは青年の閉塞状況を写しているとは思う。メッセージ性の強い社会派作品とも言える。間違いなく、そういう主張もある。あるのだが、南京錠をこじ開けているのを楽しむかのようなナルシズムも感じる。手が楽しんでいる、鍵を楽しんでいる。そこんところが古風な様式に今を感じる。


◎ 小林早苗の場合

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     ↑:小林香苗、「How Should I Live In This World?」・竹 洗濯道具 白布。


 How Should I Live In This World?「どう生きたらいいんだろう、この世界で?」、そんな意味だろう。

 下着のような洗濯物が干されていて、シェークスピア的な「生きるべきか死ぬべきか・・・」を連想してしまう。学生展だ、こういうタイトルに出会えるのは嬉しいことだ。
 タイトルに引っ張れらながらも、作品をのぞき込む。古い金だらいや燃えた洗濯物もあったりと、青年的なのだが少し収まりが良すぎる感じ。白布の綺麗さも手伝って、情念と場の関係が未整理な感じだ。この辺は経験不足で、今後に期待しよう。
 その辺を学生と意見交換して、そこで話が終われば簡単だったのだが、一筋縄では行かない議論になってしまった。

 学生曰く、「『どう生きるべきか?』、そういうことがメインテーマの発表ではないのです」。つまり、表現者の個人的自己主張は、言わば方便のようなもので、「作品と場」がどういう社会関係を築いたかを考察することにあるようだ。小林由香の卒論テーマの「芸術による社会変革」、その可能性を見定めることのようだ。
 良く言えば、鑑賞者と対話し相互交流を図ること。悪く言えば、鑑賞者が何を考え発言したのかを観察することだ。学生だから、こういう社会実験的アプローチはいいことだと思う。戦術・戦略的展覧会は大いに賛成だ。だが、実験するのに余りに生理的なタイトルを選んでしまった。作家が「どう生きるか」ということを悩みながら視覚芸術に転換した、そういう苦労・恥ずかしさの痕跡がなくて、何を会話しようというのだろう。「関係性」など生まれはしない。冷ややかな学者の観察眼のみだ。「良いものは良い、悪いものは悪い」と腹の底から明言して、初めて「芸術空間的創造」が可能だと思う。

 本格的に芸術を理論的に考えようとする若者に初めて出会った。僕には作品よりもそのことの方が嬉しかった。自分の見識をバンバン言語化・文章化して、理論を血肉化してもらいたい。僕はほとんど、「現代美術の知の最前線」をほとんど知らない。それを学んでいる人から、少しでも学びたいものだ。


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 (②に続く予定。)



 

by sakaidoori | 2010-02-24 14:09 | 資料館


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