2009年 06月 27日
○ 中嶋幸治・展 「エンヴェロープの風の鱗(うろこ)」 会場:テンポラリー・スペース 北区北16条西5丁目1-8 (北大斜め通りの東側、隣はテーラー岩澤) 電話(011)737-5503 会期:2009年6月23日(火)~7月5日(日) 休み:月曜日(定休日) 時間:11:00~19:00 ーーーーーーーーーーーーーー(6・25・木) (派手さはなく非常に地味な個展です。若い人を中心に是非見てもらいたい。) 会場には幾つかの小物がある。面積を多くとった赤と黒の作品もある。が、メインは一面に並べられた10枚の封筒だ。今回はこの壁に全神経を傾けよう。それだけで充分だろう。それほど密度の濃い封筒だ。 余韻を醒ますようにして、残りの作品に触れよう。 封筒は青みがかった白さで、いかにも手作り風という感じだ。口を開けて並んでいる。白木のような視感で目に優しい。艶の鋭さを落とすために砥(と)の粉でもまぶしているようだ。 が、何かを塗ったのではなかった。紙やすりで表面を磨いて浮き出てきた紙の地肌なのだ。それが目に優しいのだ。その優しさが包容力となって壁全体をたゆたうしい美学にしている。 「美学」、もしこの封筒を「優しき美学」で言い終えれるならば、何と素敵だろう。作家に磨きの手ほどきを受け、自身の癒しのために追体験するに越したことはない。 封筒表面には細い紙が何かの約束に従うようにして貼られている。貼られた物が封筒と一体化したようにして磨かれている。貼られた紙の輪郭線や地肌の色艶が何ともいえないムードがあり綺麗だ。 同時に、キャンバスに描かれたような線や色が研磨によってあまりに淡いが故に、鋭く目に襲い掛かる。軽い封筒が、異質な物へと重なってしまう。 淡く消し去り柔らかくするための美術家の「研磨」という行為が、逆に封筒の表面を貼られた時の姿以上に増殖させてしまった。見る人の刺激を想像力を呼び覚ましたのだ。 その表面を中嶋幸治は「鱗」と呼んでいる。 磨くという美術家の行為によって、省略・消去と増殖・構築を同時に表現している。 ここには年月によって養われた巧みな技など何一つ無い。封筒も張られた物もありふれた紙くずだ。実際、末代まで残る和紙のような工芸品を作家は好まない。素晴らしき和紙は美術家の技を幾歳月まで残す事が可能だ。今展の紙は中嶋幸治が磨いたことによって、さらにその命を短くしたことだろう。作家は自らの行為と同時にそれらの紙片が大地に還る事を望むべく美術行為を進めている。 具体的に何を消去し、何を増殖しようとしているのだろう? 封筒の鱗模様は僕には都会の林立したビルの風景に見える。市街図に見える。以前の作品に地図を現した線描画があった。「地図」に作家が並々ならぬ関心があるのは間違いない。「地図」に彼は何を見ているのだろう? 彼の「何を」、に拘るのを今回は停止しよう。消去と増殖という人間の激しきエネルギーに向き合おう。中嶋幸治は「優しさ」というオブラードに包んで見せてくれた。その感性に素直に驚こう。彼こそがその激しきエネルギーの持ち主なのかもしれない。 今展は「封筒・展」だ。それは人と人とを結ぶ物だ。会場には白い土もある、鳩の絵もある、日射しを浴びる双葉もある。全ての作品は綺麗で暖かい。愛に満ちている。その美には表現者としての嘘はない。 唯一赤裸々な作品が入り口にある。枯れた植物の枝を逆さ吊りにしている。そのコーナーは2年前のテンポラリー個展のダイジェストのようなもので、「中嶋幸治・展」への導入部である。テンポラリーへの賛歌でもあろう。 表現者とは、その枯れ枝の「逆さ吊り」と同じだ。 若き表現者の「愛」、嘘の無い「逆さ吊りの愛」だ。
by sakaidoori
| 2009-06-27 11:37
| テンポラリー
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丸島 均。札幌を中心に美術ギャラリーの感想記、&雑記・紹介。写真は「平間理彩(藤女子大学写真部OG) 『熱帯夜』組作品の一点」。巡回展「それぞれの海.~」出品作品。2018.8.30記。2577)に説明有り。 by sakaidoori カレンダー
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