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栄通記

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2009年 06月 02日

988) JRタワーARTBOX 「山本雄基 [みえないみえる]」 5月1日(金)~7月29日(水)

○ 山本雄基 
    [みえないみえる]

 会場:JR札幌駅東コンコース・JRタワーARTBOX
     中央区JR札幌駅構内
     (地上東コンコースの西壁面。東改札口の南側)
     問合せ・JRタワー展望室アートチーム
          電話(011)209-5075
 日程:2009年5月1日(金)~7月29日(水)
     (会期中無休)
 時間:8:00~22:00

 次回予告: 田村陽子、「記憶する足形」。
          (「アートボックス」公募受賞作品展。)

ーーーーーーーーーーーーーーー(5・5)

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 ある機会に山本雄基君と話しをしていたら、帯広出身だと知らされた。父親の職業上、引越しも沢山したという。

 帯広だったのか!
 大きな黒くて円い「月」の絵を見たことがある。単に、円が好きだから画いたのだろうと思っていた。闇夜に大地に寝そべって空を仰ぎ見ているとも感じたが、何かの気まぐれで遊び心で描いたと判断した。他のカラフルな絵とのマッチングが理解しがたかった。
 帯広だったのだ!
 あの月は気休めなんかではなかったのだ。彼の具体的な原風景の一つだろう。
 風土論で山本君を語る事にしよう。

 帯広は実にあっさりとした地形だ。東側のみにある山は極端に高い。西に広がる平野は果てしない。牧草地の防風林が意図的直線となり台地を切り結んでいる。地平線に落ちる夕焼けは青、黄色、朱、ピンクと七色の色をなして輝いている。本当に一日の終わりを演じている世界だ。
 内陸性の寒さは札幌の比ではない。その寒さは空気を特異な色にしているだろう。同じ内陸の旭川も寒いが、空気が帯広と違う。旭川の川の水量の多さは冬場に霧を発生させる。昼間でも一瞬にして乳白色で一寸先が闇になる。帯広も川の多い所だが、日高山脈が大雪山に比して山としての厚みは無い。春先の洪水以外は乾いた穏やかな川だ。乾燥した空気色だ。

 もしかしたら、この帯広の特異な茫洋とした姿に喜びだけではなくて、恐れおののいた体験が山本君にはあるのかもしれない。

 彼は「みえないみえる」ことに拘る。
 自己の絵の説明文に

 ・・・目の前にあるのに触れられない感覚、実体感があるようでなさそうな、何を見ているのか分からなくなってくるような不安さと、色彩と交錯のリズムの心地良さが同時に訪れるような感覚を求め、それを絵画として成り立たせる・・・

 彼の絵には似つかわしくない「不安」という言葉が突然に顔を出した。上記の文章はまるで不条理文学ともとれるが、むしろ帯広という風土の原体験を自然という言葉を排して語っているのではないだろうか。
 彼は防風林の樹頭で色や形が重なり乱舞する夕焼けを美しいとうっとりと見つめた少年だったかもしれない。一人で見ていたのだ。その光景と一体化したいと夢想したかもしれない。夢想は時が経つにつれて、かなえられない思いを自覚し、得体のしれない不安が宿り始めたかもしれない。
 彼は何度も引越しを当地で経験している。おそらく転校のある時期に自我に目覚めただろう。友達もできたこととは思うが、度重なる引越しで人一倍自然との観想体験を持ったかもしれない。自然がいつも存在する友達なのだ。

 「不安」、かれはカラフルな絵を画く事によって、自分の「不安」を思い出しているのかもしれない。その不安を「絵という形」にすることによって自信を取り戻しているのかもしれない。
 だから彼の絵は非常に個的なものだ。この個的なものが一般人の感性と直ぐに結ばれるという保障はない。


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 部分図です。
 今作はいつもとはかなり違っている。普段の平面をただ重ね合わせたような交錯の世界とは違っていた。一つ一つの円が優しい。非常に立体的に描いている。立体的に画く事によって、裏側の見えないところを「見たい見えない」という快感や不安を呼び起こそうとしている。

 道行く人はほとんど彼の絵を見ることはない。飾りのようなウインドーだ。それでいいのだ。
 絵は何時になく味わい深い。じっくり見て欲しいが、見られること少なくても構わない。それが現代芸術だ。

by sakaidoori | 2009-06-02 21:21 | JRタワーARTBOX


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