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栄通記

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2009年 04月 10日

964) 時計台 「佐藤萬寿夫・ドローイング展」 4月6日(月)~4月11日(土)

○ 佐藤萬寿夫・ドローイング展

 会場:札幌時計台ギャラリー・2階
    中央区北1西3・札幌時計台文化会館
    (東西の中通りの北側にあるビル)
    電話(011)241ー1831
 会期:2009年4月6日(月)~4月11日(土)
 時間:10:00~18:00 
     (最終日は、~17:00まで)

ーーーーーーーーーーーーー(4・9)

 今週は是非「佐藤萬寿夫・ドローイング展」を見てもらいたい。

 画家は昨年の1月早々に脳梗塞で倒れ入院された。脳の左を病んだ。必然的に体の右側の運動機能不全と言語障害という後遺症を残した。その後の治療の中での絵画制作の発表が今展だ。
 右利きの画家にとっては使い慣れない左手を中心にした作品群、リハビリにより回復途上の右手がサパートして出来上がっている。

 A室とC室の二会場の展示。広いA室はほぼ制作年代順、C室は色々な作品を交えてのお洒落な展示。

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     ↑:「08-1-18 左手」。

 病後初めての作品だと思う。当然入院中のものです。左手で描くたゆたゆしさが胸を打つ。同時に、絵を描きたいという作家の情熱、看病してくれている2名の女性への眼差し、それは画家の素直な感謝や愛情だと思う。同時に絵に対する強い執念も滲み出ている。制作日とサインが力強い。「左手」という刻印は当時どういう思いだったのだろう?おそらく無意識に描いたのでは。

 展示は時系列に幾つかの章立てになっています。以下、A室作品を時系列に何点か載せます。

 (作家は1月4日に北海道脳神経外科に入院され、2月19日にリハビリのために札幌山の上病院に移られました。
 余談ですが、医療制度について一言
 現在、医療報酬(病院が保険制度から支給される治療費)の関係で、病気治療による報酬は病状にもよりますが50日二ヶ月前後が上限になっています。それを過ぎると極端に報酬額が減らされて、病院経営に支障をきたすのです。ですから、余程のことがない限り、二ヶ月を待たずに患者さんは退院させられます。半強制的にです。「早期発見、早期入院、早期退院、早期社会復帰」という考え方です。リハビリの必要な患者さんは病気治療は終了と判断されて、リハビリ治療を中心とした病院に移らなければならないのです。)

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     ↑:左から、「08-2-16 左手」、「08ー3-7 札幌山の上病院 左手」。

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     ↑:左から、「08-4-3」、「08-5-19」。

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     ↑:「08-5-10 右手」。
 (この作品だけが唯一の右手作品。他は左手だけか、左右の手での作品。)

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     ↑:「08-5-23 左手」。

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     ↑:左から、「08-11-20 右左手」、「09-1-23 右左手」。


 殆んどの作品は色鉛筆で仕上がっている。こちらが温かくて素直な気分になってしまう。特に背景に使われている淡い茶色、なんとも言えない透明感だ。縦に横に引かれた縞模様は昔風の生地感覚を思うが、その明るさは今を表現している。線は確かにたゆたゆしいが、決して弱くはない。線と線との隙間にいろんな色や風や気分を通している。

 もともと画家は風景を抽象化し心象風に仕上げていた。四季の移ろいと画家自身の色彩感覚を重ね合わせて、自然の優しさや生命を謳っていた。画家誰でもが持つ「見えない世界」へのアプローチは佐藤萬寿夫氏にとっては「色」だったと思う。自然を鏡にして、人生経験により豊に膨らませてせて色彩を磨き上げていった。色が線になり面になり絵を作っていった。

 「磨き上げていった」と言った。絵の利き手が磨き上げていったのだ。氏の場合は右手だ。左手はパレットを持つばかりだ。使わない手というものは絵描きにとっては何だろう?粘土や石膏を扱う彫塑作家にとってはどちらも大事な手なのに。
 右手はささやいていたかもしれない。「遊びでも良いから、時々こっちの手も使ってよ。右手のように巧の修行を積んではいないけど、ちゃんと描けるよ!だって僕だって、萬寿夫さんの色彩感覚や鍛え上げていった道のりをしっているよ。」
 画家の意思に反して左手の声が実現することになった。病気により右手のピンチヒッターとっしてだ。

 画家にとっては選択の余地はない。絵が人生であり、絵を描くことが大事なのだ。
 その、1年ほどの成果を目の当たりにしている。車椅子生活からしっかりと歩けるようになった。会話能力も相当に蘇った。確かに今でも右手は不自由だ。往年の能力を発揮することはできない。今後、リハビリが効果をもたらして右手が活発になった時、右描き中心の画家に戻るのだろうか?僕はそうならない気がする。画家として研鑽するなかで、右手は多くのことを覚えたが、何かを忘れたのも事実だ。その何かが左手が思い出させてくれたのではないか?画家は誰でもが上手くなりたいと望んでいる。その為に努力を惜しまない。だが「上手い絵」が「良い絵」という保障はない。それでは「良い絵」とは何だろう?

 佐藤満寿夫氏は豊かな色彩感覚の持ち主だ。
 綺麗な絵だ、心温まる絵だ。色が家となって語り合っている。一方で画家と云う人間の凄みがここにはある。病気という不幸な事件は彼に新たな可能性を与えた。


 (もう少し写真を載せる予定。)

by sakaidoori | 2009-04-10 11:48 | 時計台


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