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栄通記

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2007年 05月 07日

172) 門馬 「熊澤桂子展」・映像&ガラス ~5月12日まで

○ 熊澤桂子展   Carrot Tunnel

 会場:中央区旭ヶ丘2丁目3-38
     門馬 ANNEX・バス停旭ヶ丘高校前近く 
     電話(562)1055
 会期:5月3日~5月12日(土)・無休
 時間:11:00~19:00

 1970年 横浜生まれ
 1993年 武蔵野美術大学 造型学部建築学科卒
 1996年 富山ガラス造型研究所 造型科卒
  現在   北海道富良野市在住、キルンワークによるガラス造型をおこなう

 熊澤さんは富良野の畑作地域に住んでいて、札幌では初個展。
 「Carrot Tunnel」・・ニンジンのあなぐら、何のことだろうと思って会場を拝見。確かに穴倉だ。窓、出入り口を塞ぎ、二部屋の穴倉を作っている。初めの部屋はほんの小部屋で、真っ暗な中に縦長の細い台の上にガラス・ニンジンを置いて、鑑賞者を次の部屋に誘う心の準備をさせる。真っ暗な部屋に、台座からの光にあたって赤く燃えているニンジン君を不思議な気持ちで見るのだ。まぶしく燃えるニンジン・・黒いカーテンを開けて次の部屋に入る、何だかわからない模様が左右の壁に映り、通路に先程みた台座の上のニンジン列を見るのだ。もぞもぞしていると向こう側の撮影機の辺りから優しい女性の声で、「こちら側のほうが良く見えますよ」と、顔も見えず聞こえてくる。仕方なくというか、だまされたような変な気分でニンジンの間をすり抜けながら、それでもニンジンを手にとって眺め確認しながら、声のする人の居る場所に辿り着き、振り返って今来た通路を眺めることになるのだ。驚いたね、かなり速いスピードで画像が流れているのだが、緑色した部分が富良野の風景で、赤い部分が大量のニンジン達で、ニンジン達が選別機でころがり回り、ニンジン・コンテナに集められ、なぜだか解らないが、緑なす野に捨てるかのように堆積されているのだ。一応映像は5分間だが、エンドレスのように流れていて、その間に製作者・熊澤さんがガラス・ニンジンと映像の説明をするのである。映像はかなり早い、アップにしたり離れたり、ストーリーの展開も気ぜわしい。二次的映写空間が狭い左右の壁をスクリーンにして、しかも右側の窓のある壁は10cm程壁から下がって段ちができているので、映像も妙に屈折していて、立体表現になっているのだ。真ん中のニンジン台座にも映像は写っていて、益々立体感、赤と緑の迫力はガラス作品を薄くしていて、今展が映像作品と呼ぶにふさわしいものになっている。
 
 作品の中身は何か、作家の言葉を引用しよう。「ガラス作品なんですが、私、ニンジン選別所にアルバイトに行ったことがあるのですよ。選別機を流れるニンジンの中に形のいびつな変なニンジンがあるのです。その形が面白くて、売れないはね品ですから、断って貰って集めたわけなんです。そのニンジンを原型にして鋳型を作り、ガラスを流して造ったのが、展示されているニンジンなんです。4年ほど前のことですが、ニンジンの大豊作で、生産調整、流通量調整のために小さいニンジンなど集めては無造作にその辺の道路脇から見えるところにでも、廃棄処分にしたのです。今流れている映像はそれらの廃棄ニンジンなんです」

 作品について。ニンジンは重さをのぞけば、肌触り色合いとかなり再現性の高いものです。重さも同じようにはできるのですが、そうすると下から光を当てた時の深い妖艶な色合いが出ないとのこと。ガラス作品の命である光との相互作用。異形のニンジンに対する興味も単なる造形的関心からだけではないだろう。食べられることの無い、人から無視される運命にあるニンジンにスポットを当てて、ニンジン界を見る、ニンジンと人間の関係、ニンジンを通した人間社会を見るということだろう。

 建築を学んだという経歴と映像を見て思ったのだが、彼女にはガラスの単品制作に満足できない、表現しきれないものがあるのだろう。建築という思想性・全体性と実用性の強い表現様式の勉学経験が社会経験を積むにしたがって、ガラスを核にしながら、より大きく表現したいという気持ちを強くしているのではないだろうか。その一里塚としての今展の映像とインスタレーションだと思う。都会人が田舎に入り田舎を斬り、返す刀で都会を斬る。ニンジン君達の廃棄処分というあまり無い社会現象に遭遇しての作家・熊澤女史の思想が視覚化された時である。自然の擬似再現、リサイクルなども彼女にとってはキー・ワードかもしれない。誰でもが思い、多くの作家たちがそれぞれに表現しようとしていることでもある。新たな視点をどれだけ付加できるかがこれからの勝負だろう。

 今展の「熊澤流」はなかなかに面白い。行きにくい場所ですがわざわざ行くことも鑑賞者のテンションを高めるでしょう。もし面白くなかったら、栄通とともに夕餉(ゆうげ)のニンジンを笑ってください。

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by sakaidoori | 2007-05-07 16:27 | 門馬・ANNEX


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