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栄通記

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2007年 02月 01日

35) 時計台 「福岡幸一版画展」 ~2月3日まで

○ 福岡幸一版画展 1979-2006

 場所:時計台ギャラリー 2階全室
    北1西3 札幌時計台文化会館・仲通南向き
    電話(011)241-1831
 期間:1月29日~2月3日(土)
 時間:10:00~18:00 最終日17:00まで

35) 時計台 「福岡幸一版画展」 ~2月3日まで_f0126829_15283459.jpg
 1947年、北見市生まれ。北見柏陽高校時代に神田一明・比呂子夫婦に教わる。一明氏とは共にスケッチ旅行をするほどの画家仲間になる。その後清水敦氏に銅版画を習う。1971年より札幌市在住。72年結婚。

 大版画展である。急な個展で、綿密な計画に基づいた作品構成ではないが、普段から制作に怠り無いから何の問題はない。現在はアンモナイトシリーズに励んでいる。「再びであってもそれを見てもらえればいい。常に過去と今との対話が作品に語られているから、いい機会だから整理して我が作品と一同に会しよう」福岡さんはそんな気持ちだろう。バイタリティー溢れる人だ。姓が故郷と同じなので見始めの頃から親しい気持ちだった。こういう場合、作品が自分の感性とズレると困るのだが、始めてみた木々は写真と違って優しかった。そうか、腐食技法とは輪郭が優しいのかと知った時だった。その後、今展でも販売している『福岡幸一画集1963-1997』を見て、それ以前の油彩、版画に触れてより関心が深まった。

35) 時計台 「福岡幸一版画展」 ~2月3日まで_f0126829_15301117.jpg 今展は1979年から2006年、32歳から59歳までの27年間の作品集である。Ⅰ部、濃厚な生活感と人間臭のこもった板壁・風よけ・長屋・砕石場シリーズ。Ⅱ部、一本の樹の生命に焦点をあてた樹木シリーズ。Ⅲ部、博物図鑑を見るようなアンモナイト・シリーズの3部門に明快に配置されている。普通なら何ら問題視しないのだが、仕方のないことだが図録を見た人間には残念な気持ちも沸いてくる。20代のダイナミックな明彩の油彩画、その油彩から色を落としたモノトーンの版画を一点でも見たかった。それは一目で神田一明の影響を、ゴッホが好きなのだと解る。そうであっても青年・福岡のストレートな感情移入、直裁さ、激情が伝わってきてたじろいでしまった。誇張美(表現)は50代の目には好ましく爽やかであった。以来、この作風の変遷の源とこれからの方向が福岡作品を見るテーマの一つである。

 観覧後久しぶりに図録を見直した。初期の作品を見れなかったばかりではない。なぜ1979年からの展示なのだろうと思ったからである。
 画集発刊にあたっての本人の言葉がある。その中に「・・、版画が先に認められたこともあり、油絵を描くことをやめてしまいました。そんな自分に対する甘えなどが、その後の長い低迷期を迎える大きな原因の一つだったと思います。その長いトンネルを抜けるのにおよそ10年かかりました。・・」この図録だけではこの10年の低迷期をはっきり断言できないのである。札幌在住以前の1971年までは油彩を中心に制作している。その後は年間の作品収録も平均して少なく網羅的である。特に1972年に結婚されて子供も矢継ぎ早に恵まれて生活に追われたことが原因でもあると思う。だが、画集から伝わる匂いと、今展が1979年から始まっていることを考えると、札幌転居後の早い時期が長いトンネルの始まりで、1979年頃が抜けた頃だろう。おそらく油彩に表現されていた天真爛漫な自己の直裁性への疑問、札幌という都会に本格的に家族を持って住むことになり、カルチャーショックのような状態になったのではなかろうか。地方育ちの青年が必ず一度は通る悩みだ。芸術の神に「芸術を志す人間」に「お前とは何なのか、作品とは何なのか」と詰問されたのだろう。以後、作品から誇張された激情さは消えていく。しかも間接画法である版・エッチングを選んだ。今展Ⅰ部は未だ人工物を画題に選んでいる。対象を観る・掴む真摯な態度は白黒ゆえに迫力がある。日本画のような空間美、余韻を感じる縦長の枝振りの作品の後に、Ⅱ部の人為と微妙な関係35) 時計台 「福岡幸一版画展」 ~2月3日まで_f0126829_15321520.jpgにある樹木・果樹シリーズとなる。神木としての桂、営為としてのりんごの木、北海道の日本の地位を暗示するかのような外来樹プラタナス。北海道の冬は雪に覆われるから具象・抽象の世界が生活の目になる。作品は装飾を抑えて、雪で余白美を表現し、樹そのものに迫ろうとしている。ストレートではないが、枝ぶりに幹の皺に描き手の生理を思う。35) 時計台 「福岡幸一版画展」 ~2月3日まで_f0126829_15334149.jpgⅢ部のアンモナイトにいたって対象は発掘、発見という要素を除いて人間から遠く離れていってしまった。普段使わないメゾチントも試みている。色付きである。表現主義という観点からすれば逆方向に行くところまで行った感じがする。福岡さんはあと3年は描いて区切りをつけたいと仰る。北海道は世界に自慢できるアンモナイトの宝庫と聴いたことがある。はるか昔に存在したアンモナイトの美と多様性を描ききりたいのだろう。先の『図録発刊にあたって』に「・・。今後は描きたい物にこだわり、そのこだわりを捨て、またこだわり、そんなことの繰り返しの中から作品を作りたいと考えております。・・」

35) 時計台 「福岡幸一版画展」 ~2月3日まで_f0126829_15342995.jpg 同図録に洋画家・神田一明氏、白鳥信之氏の寄稿文があります。短いので展覧会場入り口ででも立ち読みしてみてください。短く福岡さんとの関わり、絵の特質、今後の希望が書いてあります。

 注:D.M.には「福岡幸一版画展 1979-2004」とありますが、「1979-2006」の間違いと確認できたので、訂正します。文中もそれに伴い書き改めました。

 

by sakaidoori | 2007-02-01 13:35 | 時計台


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